新宿の工事現場のフェンスが、森山大道の写真ギャラリーに! 行って記録してきました。
パリの街角でブラッサイやアンリ・カルティエ=ブレッソンの写真を突然目にしたらきっと感動しますよね。
同じように、東京の街と一体になった写真を体感できるイベントがいま開催中です。
西武新宿駅の横に位置する旧・新宿ミラノ座跡地の「新宿アートウォールプロジェクト」。
工事現場に飾られているのは、森山大道さんのモノクロ作品群。
写真集「新宿」「ニュー新宿」などからの未発表を含む29点が集められました。
森山さんが鋭く切り取ってきた歌舞伎町界隈の混沌とした新宿を、いまもこの写真家の目を通して眺めている人は多いでしょう。
(私もたぶんそう)
東京都庁舎もある新宿へコロナ禍に出掛けるのは少し気が引けるものの、屋外ですし見逃すまいと行ってきました。
とくに面白かったのは、「アレ・ブレ・ボケ」が工事現場のムードと見事に調和して、場所も含む総合的なアート空間になっていたこと。
働く作業員さんもアートの一部かと思える奇妙なざわめきがありましたね。
イベントは初夏までの開催予定ですから、いますぐとは言わないまでも情勢が落ち着いたらご覧になってはいかがでしょうか。
そのときのご参考に、撮影してきた様子を以下にざっくりと並べます。
何の解説もしない不親切さですけども。
この記事の最後で、約20年前に森山さんにインタビューしたときの印象深かったエピソードを少しお話します。
いかがでした?
空気感が少しでも伝われば幸いです。
さて。
森山さんを取材したのは、私が新宿にある文化学園(文化学園大学、文化服装学院そのほか)の系列出版社「文化出版局」に勤めていたころ。
女性ファッション誌「装苑」の編集者時代でした。
半ページのアート欄でのインタビュー。
森山さんは学校の敷地内にある撮影スタジオにわざわざ足を運んでくださいました。
ファッション学校だからって、古い建物のボロいスタジオだったんですよ!
(組織を抜けた人間に言われたくないよな…)
取材場所を決めるとき仲介の人から、「気取った場所が苦手だから、文化のスタジオが気楽でいい」と森山さんがリクエストしていると伝えられたことをよく覚えています。
私はこの撮影スタジオが大好きでした。
静かで誰にも邪魔されず話を聞けるしホームグラウンドだし、若い編集者にはベストな取材場所で、ここを選んでいただいたことがとても嬉しかったのです。
森山さんはラフな服装でウエストポーチを巻いて現れ、そこに収めていたのはオリンパスのコンパクトカメラ「ミュー」。
プラスティック外装の大衆カメラで、前面カバーをスライドさせるだけでサッと撮れるベストセラー機種でした。
(私も持ってた!)
ただこのカメラ、スイッチ切るとストロボ設定が初期化されてしまい、次に撮るとき暗い場所だと自動で光ってしまうのが厄介で。
森山さんはそこは気になさらないのだな、と思ったことも記憶してます。
手に馴染むカメラ、粒子の荒れた白黒フィルム、カメラに付属するストロボが3点セットになった、 “ザ・写真”。
カメラという機械と蜜月な関係にある写真家なのでしょう。
少なくとも20年前は。
(勝手な物言いですみません)
「フィルムから極端な部分的トリミングをして作品にすることもある」、とも語られたインタビュー。
撮るときのフレーミングを完璧に、と教えられがちな撮影セオリーに違和感を抱いてた心を晴らしていただいた一言でした。
デジタル動画全盛のいま、時を止めた写真だからこそ広がる想像と物語がある……な〜んて言ってみたところで、スマホ以外で写真を眺める機会は少ないですよね。
新宿アートウォールプロジェクトは街の移り変わりともリンクする無料の体感イベントですから、写真に関心が深くない人も楽しめると思います!
撮影 © 高橋一史
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